プールと洋服と幽玄と3/3
nが子供の頃、
家の長押に掛けてある、父親母親の洋服が 怖かった。
ハンガーから釣り下がる、何の変哲もない
ロングコートやワンピース、ジャケットである。
夜寝る時に、下から見上げると言い知れぬ怖さを感じた。
だからそれを見ないように、長押側を背にして
いつも眠りについていた。
日中に、ハンガーに掛かる洋服たちを見ても
不思議と怖さは感じなかった。
怖さを感じるのは、決まって夜、寝る時であった。
暗がりの中にぼんやりと浮かび上がる、垂れ下がる布は、
正体不明のお化けのようであった。
ほのかに見える程度で、実態が明らかでない。
もしくは。
実は、実態を知っているはずなのに、不透明さ(水中)や暗さ(夜)が加わると、
とあやふやになる。
定かでなく、不確実な要素が多い。
能、グラビア、恐怖心、どれにも当てはまる。
日本人は、なんだか訳わからない状態を指す、「幽玄」に
つまびらかにならない美を見出し、その概念を芸術の域まで昇華させましたが、
長男と幼少期のnは「幽玄」が、
原始的な段階で出現しているのであった。