マニキュアに時の経過を感じる2/2
蓋が開き、かつ
使用できそうなマニキュアは、一つだけ残っていた。
ブルー系である。
ピンクかレッドを塗りたかったが、
使い物にならないくらいに劣化していた。
ピンクは、あやしく三層に分離。うっすら揮発。
レッドは、どす黒い茶色に変色。同じくうっすら揮発。
赤系は諦めるしかない。不本意だけど、残り物を塗るしかない。
メタリックな寒色系で決めよう。
「明日もワンオペ育児だ。早いところ、寝よう。」
乾いたと思われる頃、就寝した。
翌朝。
フットネイルはヨレて、掛け布団のタオル模様が
きれいに爪に押されていた。
いろいろな点で、時期尚早だった…。
マニキュアに時の経過を感じる1/2
子どものプールに付き添うと、否が応でも裸足になる。
「爪の色彩に乏しいな。」
自分自身のことに注意関心が向いた自分に、驚いた。
毎夏プールに連れて行っているのに、自分の足元、ましてや自分の爪なんかに注目したことは、
子供が生まれて以来、久しく無かった。
手のかかっていた末っ子も、最近は一人で出来ることが増えた。
長女長男と同じような日常の基本動作が出来るようになった。
24時間&365日の育児の臨戦態勢が
少しずつ解けてきた。
だんだんと手が離れる、とはこういうことか。
「フットネイル、してみよう…。」
子ども達が寝静まってから、いそいそと準備をする。
一通りのネイルグッズは揃っている。
足の指同士の間隔を広げるセパレーターは、すぐに見つかった。
「さて、マニキュアはどこにあったかな?」
ガサゴソと化粧品の棚を探す。
あった。
ほこりをかぶっている。
蓋が開かないほどマニキュア液は、
カチカチに固まっていた。
折り入ったお話2/2
先々のことをシュミレーションしながら、忙しく数日が過ぎた。
…まだ来ない。5日超であった。
規則正しい周期の女性なら、確信を持って疑い始める頃である。
検査薬を買う前にもう一度、日にちを確認してみよう。
暴れ騒回る子供たちがいない空間で、落ち着いて…。
つまり会社で。
自分の席に卓上カレンダーを置いている。
仕事のスケジュールを書き込むふりをして、
密かに毎月の予定日もメモしている。
あっ!
…まだだった。
旦那さんにズンズン詰め寄ってしまった。
精一杯柔らかく言ったつもりで、詰問してしまった。
「どないしはるんよ??」
そんな自分こそ、どうするんですかね。。。
まだまだあります、
数を正しく数えられないシリーズ
neillot.hatenablog.com
neillot.hatenablog.com
折り入ったお話1/2
おかしい。
どうもおかしいぞ。
「あのぅ…折り入ってお話があるんですけど…。」
なんていう改まった前置きもなく、妻はいきなり本題に入る。
しかもメールで。旦那さんへ突撃だ。
「あの、遅れているんですよね。まだ来てないんですよ…今日で3日遅れです。」
して、いったい何が遅れているのか。
おそばの出前か、ピザの宅配か?
それともネット注文した、日時指定の「家族の青汁」5パックか?
いずれにしても3日の遅れは、やりすぎだろう。
そもそも、何の話なのか。
三児の父である旦那さんは、すぐにピンときたようだ。
旦那さん:「違うと思うよ。じっさい…もう少し待ってみたら?」
n:「3日遅れているという事実に、恐れおののいているんだよ。」
旦那さん:「残業が続いてるから、遅れてるだけだよ。疲れているんじゃない?」
n:「現実を直視できるのは、私だけですね。」
移動中に交わす夫婦のメールは
相変わらず、かみ合わない。
けん伯父3/3
伯父には、彼女がいる。
私達が伯父の家にお邪魔するときは、その彼女が
お世話をして下さいます。
名前は吉野さん。
掃除の行き届いたお部屋、ふかふかのお布団、
アイロンのきいたシーツに、新しいタオルや石鹸。
冷蔵庫には、食べ物やら飲み物を過不足無く
揃え
子供たちへのおやつも忘れない。
数日前から全て
吉野さんが用意周到に準備して下さるのであった。
手料理までごちそうして下さる。
星野リゾートを上回る、吉野リゾートである。
子連れで騒がしく泊まりにくる私達に
毎回とてもよくして下さります。
元をたどれば、たぶん
伯父のことが好きなのであろう。
伯父の妹であるnの母が、
再婚は考えたりしていないの?と聞くと
「いやー再婚を考えていたら、もうとっくの前にしてるさ。
気が強い女性なんだ。とにかく我が強い。」
朝な夕なに
池に通いつめ、熱心にバードウォッチングをする伯父。
理由が分かった。
人は、他の生きものに自身を投影するものだ。
けん伯父2/3
がぁこは
車のエンジンの音で、伯父が来たことが分かるのだそう。
私たちが訪れた時も、エンジン音を聞き付けて
岸辺まで泳いできていた。
「なつくとかわいいだろう?」
がぁこは
一羽の水鳥を従えて泳いできた。
伯父によると「しげじ」という名前だそう。
がぁこの旦那さんであるという。
「しげじは餌を食べない。がぁこに遠慮してるんだ。」
伯父の言う通り
しげじの目の前に餌を投げても、しげじは食べない。
がぁこが全部横取りしている。
気の強いがぁこと
つがいになってしまったせいで
昨春は、北へ渡っていけなかった。
そう、しげじは渡り鳥であった。
かるがもの類ではないか、とのこと。
「他の鳥たちが北へ帰っていく中、しげじだけは
この池にとり残されてたんだ。」
帰り道、橋のたもとに車を止めて
遠くから
がぁことしげじを眺める伯父。
手にはバードウォッチング用の双眼鏡を持っている。
この熱心さは
あひるやかるがもが、自分になついてかわいい
という理由だけではないと思う。
けん伯父1/3
ひで伯母さんの、だんなさん。
nの母の、お兄さんである。
ひで伯母さんが亡くなって、やもめとやった。
趣味は、バードウォッチング。
はて。nが小さかった頃は
バードウォッチングなんてしてたかな?
「最近だよ。通ってる池があるんだ。」
nが子供たちを連れて伯父の家へ遊びに行った時、
その池に連れていってくれたことがある。
湖畔には、白鳥とおぼしき水鳥が描かれたプラカードが何枚も重なり
雨ざらしになっていた。
かつては地元のささやかな観光スポットとして
栄えていたという。
バードウォッチングのバードとは、この池の
あひるであった。
伯父は、そのあひるに「がぁこ」という名前をつけていた。
「がぁこは気が強い。餌をやると、他の水鳥たちをみんな蹴散らしてしまう。
独りで全部食べてしまうんだ。」
なるほど、がぁこは他のあひるよりも丸々としている。
鳴き声も大きい。だから、がぁこ なのか。
朝と夕にその池に立ち寄るという伯父。
もちろん家から歩いて行ける距離にはなく
車を走らせて、である。
人気のない寂れた池に
伯父は何を見ているのだろう。