お別れシーンがオーバーラップ3/3
茫然として家へ戻る。
コートは着たまま
子供の手袋と用意したおやつを手に持ったまま、
旦那さんに電話をした。
運転中でも、長女が代わって出てくれるであろう。
n「もしもし?」
長女「あっ、ママ。」涙声である。
長女は、nが来ていないのに発車してしまった父親に抗議していたそうな。
n「(泣いている事情を聞き)そうだったのね…。ところで手ぶら通話にしてくれる?」
(旦那さんに向かって)
n「あの、なんで私はここ(家)に居るんでしょうか?」
旦那さん「一人の時間も必要だから、家でゆっくりできたらなと思って。」
n「子供たちの手袋とおやつ、渡せなかった。」
旦那さん「じゃあ、戻るよ。」
n「いや、いい!!子供たちの遊ぶ時間が少なくなるからいい!!」
運転中の人に
これ以上話すと危ないので、話を切り上げた。
旦那さんはUターンして戻ってきた。
旦那さん「一緒に行こうか?」
n「いいです!遊ぶ時間が減るからいいです!!早く行って下さい!!
私は、家で別のことをします!」
旦那さんは
手袋とおやつをピックアップして、去っていった。
一体どっちなのか、妻も夫も・・・。
お別れシーンがオーバーラップ2/3
映画やドラマのお別れシーンによくある演出。
動き始めた列車を追いかけて、ホームを走ってゆく女性。
列車の中には、ガラス窓に顔をくっ付けて
追いかけてくる女性を、名残惜しそうに見つめる男性。
女性はやがて追いかけるのをあきらめる。
もしかして、転ぶかも知れない。
スピードを上げて走っていく列車を、泣きながら見送る。
涙にくれながら、その男性の名前を叫ぶかも知れない。
そこに列車の汽笛が重なる
…みたいな。
こんな情景がオーバーラップした。
でも、少し違う。
nは泣いたけれども、転んではいない。
だいいち
走り去る車を、追いかけていない。
お別れシーンがオーバーラップ1/3
週末、家族でドライブをすることになった。
非常に珍しい。
久しぶりのことで、みんなウキウキ。
子供たちはじゃっかん騒々しいくらい。
バタバタと出かける準備をして
nが最後に家を出た。
「さて出発と。
あれ、みんなはどこかな?」
子どもたちの姿が見えない。
旦那さんの姿も見えない。
…駐車場に車が無かった。
溶け残った雪が、走り去ったタイヤの跡を残していた。
nは悟る。
みんな行っちゃったんだと。
nは泣いた。
「長男と次男に手袋、渡すつもりだったのに。」
「みんなのおやつも用意したのに。」
常務に問う「黒のトロンボーン」5/5
今思い返してみても
U常務には、“みんなに知られてはならない何か”が
あった様におもう。
nと同期入社の同僚は
「nちゃんのフロアのU常務は、いつ見ても素敵よねー。」
と常々言っていました。
「素敵な中に、何かある。U常務は、なかなかに危険な男…。」
なんてことは
同僚にも他の誰にも、言ったことはありませんでした。
個人的体験と個人的憶測に基づく、これまた個人的な印象なので。。。
しかし
そろそろ時効かなと思いまして、書いてみました。
さて。U常務のその後は―
nは既に転職してしまっているので
知る術がありませんが
風の便りに
専務へ昇格し、円満に定年退職されたと聞いております。
常務に問う 「黒のトロンボーン」4/5
U常務にささやいてからというもの
どこからともなく
「U常務は、新人のnさんを気に入っている?」
という噂が立ちました。
噂は、もちろんnの耳にも入ります。
当時は
初めて覚える業務に早く慣れようと、毎日精一杯だったので
自ら気付く余裕はありませんでしたが
社内でのプチ変化には、気付いていました。
とつぜん席替えが行われ、nの座席はU常務の前になる。
しかも背中を向けて座る。
常務宛に届いた高級なお菓子を、こっそりnだけにくれる。
(常務は大の甘党)。
リフレッシュルームにある冷蔵庫の飲み物は、
好きなもを、好きなときに飲んでいいよ
とわざわざ言いに来る。
胡蝶蘭を「持ってっていいよ。」と勧めてくる。
その時のnの状況で、マイナスの方向に実行力がある方なら
すかさずやると思います
身辺調査 と ゆすり を…。
U常務は
nを気に入っていたのではありません。
nからこう言われることを、恐れていたのです。
「黒のトロンボーン に
お心あたりはございませんか、U常務?」
常務に問う 「黒のトロンボーン」3/5
U常務を百貨店のエスカレーターで見かけた翌日。
会社でいつのように朝の郵便物の仕分けをしていたら、
隣に常務がやってきました。
「これ、出しといてね。」
ハガキに切手を貼って
普通郵便で出しておけばよい。
nは素直に
はい分かりました、で会話を終わらせばよい。
それなのに余計なことを言ってしまう。
「昨晩、常務をお見かけしましたよ。」
「えっ?ど、どこで?」
「○○百貨店の付近です。」
「あぁ~なぁんだ、そこね。ハッハッハッ…。
昨日は人と会う約束をしててね…。男性とね、男性。」
「なるほど、そうだったのですね。」
「声をかけてくれれば良かったのに。」
「とんでもないです…ご迷惑かと思いまして…。」
「約束していた人は、男性だからね。男性。」
「は、はい。。。」
(もちろん常務は、nが真後ろにいたことを知らない。)
「いゃあ、お得意さんでね、男性の。ハハハハ…。」
郵便物の仕分けをする作業台は、オフィスの中央にありました。
ここで立ち話をすると、全社員にもれなく聞こえます。
なので
nは小声で、常務の耳元にささやいたわけですが、
常務の声は、いつにもまして大きかったのです。
「声はやたらと大きいし、会ってた人の性別を何度も強調するなんて…U常務はあやしくないか?」
とnはおもった。
常務に問う 「黒のトロンボーン」2/5
話が前後します。
nが学校を卒業してすぐに勤めた会社に
U常務がいらっしゃいました。
一度、会社の外で見かけことがあります。
仕事後、百貨店内にある書店に用事があって
エスカレーターに乗ると、目の前に
U常務がいました。
隣には、常務と同じくらいの年格好の方が一名。
U常務は、その方に
これから行くと思われるお店の話をしていました。
接待かな?
会社で見せる厳しめの表情とは違い
どことなく弾んで、なんだか嬉しそう…。
その方と
おいしいお酒を片手に
おいしいお食事に舌鼓をうち
おいしい話を仕入れてくるのでしょうか。
nは、エスカレーターを下り
そっとその場を立ち去りました。
入社したての下っぱに、そんな場面で挨拶をされても
邪魔、かつ迷惑だろうと思ったからです。
第一、社外では
誰だか分からないとおもう。