えんずいの生徒さん1/6
nの母はおよそ20年間、学習塾の講師をしていた。
国語と数学を教えていた。
あるとき
一人の生徒さんが入塾してきたそうな。
その学習塾は少人数制を謳っていたが、生徒さんのお母様は
個人授業を強く希望していた。
「うちの子は、少人数のクラスでも難しいと思います。」
その生徒さんは
耳のあまり聞こえない祖母に育てられたという。
山奥の人里はなれた村で
祖母とふたりっきり。ほぼ無音の世界で成長した。
家庭で言葉を聞く機会が少なかったため、言語の習得が
遅れていたのであった。
事情があって両親とは一緒に住んでおらず
月に数回、母親が自宅に連れて帰り
一緒に過ごすこともあったという。
それでも
同年代の子達と比べると言葉は遅れがちであった。
その生徒さんは、中学二年生。
男の子であった。
数学や英語の成績は、
あまり問題は無かったようだが
国語の成績は、ずば抜けて問題アリだった。
塾長さんは
個人授業を引き受けてくれるかどうか、nの母に打診した。
「かなり難しいケースです。
学校の成績うんぬん以前に、基本的な言語の習得、理解を促すことから入ってください。」
nの母は、悩んだ。
悩んだ末、引き受けた。