ひで伯母さん3/3
当時の母は、シャネルのスーツを家着としていた。
オートクチュールのスーツが普段着になりうるような家庭ではない。
豪華とは縁のない、どちらかというと質素な家庭だった。
母はシャネルスーツの上から、地元スーパー2階の衣料部で買い求めた
「今月のマル秘!お買い得商品 エプロン@789円!」をしめていた。
スーツは、ひで伯母さんのものだった。
チンケなエプロンとの組み合わせでは
ひで伯母さんだけでなく、ココ・シャネルも泣くだろう。
何故、母は室内だけでスーツを着ていたのか?
母のサイズのどこ一つとっても、
全然フィットしていなかったからである。
「スーツの上下とも入るのだけど、すべての丈が短いわ。変な所が余ったりして…。」
要は、つんつるてんでブカブカだった。
ひで伯母さんは、小柄で全体的にまろやかな感じの方だった。
着心地の悪いスーツでも
シャネルということで無理矢理にでも着ているのでは?
nは邪推していた。
女兄弟のいない、nの母。
帰省した折には、暇さえあればひで伯母さんと話し込んでいた。
今思うと、子どもは入りこめない大人の女性の話をしていたように思う。
おしゃべりはいつも決まって長かった。
「故人の物は、使ってあげることが一番の供養なんだよ。
ひでちゃんを思い出すことができるから。」
nは邪推した自分を恥じた。
もうすぐ
ひで伯母さんの命日である。